はじめに

 本委員会では,平成7年度より「情報規格の社会構成主義」を標榜して,広い意味での情報規格策定普及に当事者としてとして関わってこられた方からのヒアリングを中心として活発な活動を続けてきた。また,この委員会の大きな特徴として,従来の紙による報告書の作成と平行して,電子工業振興協会のホームページを利用した電子的な報告書の作成にも注力してきた。

 今年度は,過去のヒアリング記録の読み直しを含め,過去3カ年の総括として,一定の方向性を見いだすことを目標に活動を進めてきた。

 当初より予想されたことでもあったが,ある情報規格が広く社会に受容される要因を一意に定めることはもとより不可能であることは言を待たない。にもかかわらず,成功した情報規格にはある種の漠とした共通な要素があるように思える,というのもまた率直な感慨である。本委員会でのヒアリングで当事者から感じられた共通の要素を一つだけ挙げれば,成功した情報規格に関わったすべての人が「その規格のメリットと成功を信じて止まなかった」という点につきる。それはまた,至極当然といえば当然の結論ではあるが,何らかの形で物作りに関わる人たちに共通に見られる美質の一つでもある。情報規格といえども,何かを作り出すという点では形あるものを作ることと何ら違いのない面を持っていたのだ。このようなある種人間くさい情熱が情報規格の世界にも存在することを確認できたことは,本委員会での望外の成果の一つであった。

 当然,無形物である情報規格特有の要素も多く存在する。それらの要素が,どのような形で社会的な受容と関わりを持つかについての議論は報告書本文に譲り,その可否は読者諸兄の判断にゆだねることとする。

 最後に,3年間本委員会に委員長として関わってきた者としての,個人的な感慨を述べることをお許しいただきたい。

 本委員会の発足に当たり,筆者は事務局に対して,一つの要望を出した。会員各社から若くて生きのいい担当委員を派遣していただきたい。希望はみごとにかなえられた。各社より,電子化文書に関わるソフトウエア開発やシステムエンジニアリングの現場で活躍する一線のエンジニアの参画を得ることが出来た。当初,エンジニアリングの世界とは異質な社会学的アプローチに対するある種のとまどいを見せていた委員諸氏も,現在では談論風発,筆者が口を挟むいとまを与えないほどの活発な議論を展開してくれている。

 筆者にとって,この委員会での最大の成果は,このような形で若い委員諸氏と関わることが出来た点にあるのではないか。委員諸氏が,それぞれの企業での仕事の現場に戻られても,本委員会での議論の成果を踏まえ,「情報規格の目利き」として,筋のいい情報規格の策定普及に尽力され,企業の発展に裨益されると同時に業界全体の発展と,なによりもエンドユーザの利益に結びつく活躍をなさることを願って止まない。

 最後に,筆者の提案を了とし,このような奇抜な委員会活動を支えてくださった電子工業振興協会と本委員会の親委員会である計算機技術委員会委員長の田中英彦東京大学工学部教授,宮川孝次郎氏を初めとする事務局のみなさまに,改めて感謝する。


(C)1998 社団法人 日本電子工業振興協会