本節では,報告書の構成案や内容に関して議論となったトピックについて説明する。
本委員会では,3年間の委員会活動の多くをヒアリングに費やしており,3年間で実施したヒアリングは合計13回にのぼる。それぞれのヒアリングの内容はすべてテープで録音し,その内容をテキストとして残している。
本委員会の3年間の活動をまとめる報告書を作成するにあたり,ヒアリングのログそのものが何かをもっとも迫力があると考え,ヒアリングのログの内容を報告書作成の出発点とした。そして,以下の手順で報告書を作成した。
報告書の作業手順の決定に際して,「全体構成がないと,この先の作業をすすめるのが不安である」という意見もあった。しかし(2)のフェーズを終わった時点で,まだ文章は一切書いていないものの,ほとんどの委員があたかも「報告書がほとんど完成した」かのような実感を得ることができた。
この報告書作成手順は,ログという混沌とした情報の固まりから秩序を生み出し,文章としてまとめるという「KJ法」のような作業である。多量のデータを集め,そのデータを分析し,データ自身が語っている方向性をくみとるという今回の報告書作成手順は,特に(1),(2)の作業に非常に時間がかかる。しかし,今現在完成した報告書を眺めてみると,本書はヒアリングログという事実の裏付けをもち,完成度の高いものとして仕上がっているのではないであろうか。
本報告書は,当初から紙への印刷とWWW上での公開を想定していた。文章作成に先立って,「紙用の報告書とWWW公開用の報告書の2種類の報告書を作成する必要があるか」ということが議論となった。
報告書作成の作業を考えると,紙の報告書用の文書とWWW公開用の文書の両方の文書を作成するのは二度手間になってしまう。しかし,たとえば関連情報を示す手段として,HTML文書ならばリンク情報としてユーザに提示するのが一般的であるのに対して,紙の文書ではそれ以外の方法(例えば,内容を引用する)を取らざるを得ない。結局,文書の媒体としてHTMLのような電子的な媒>体を使用する場合と紙を使用する場合では書き方を変えざるを得ないと考え,二度手間は仕方がないこととした。
また,キーワードの場合はヒアリングログ中の位置を示すのに特定のパラグラフに対応するが,キーコンセプトはヒアリングログ中の複数のパラグラフに対応する場合がある。この場合の対応パラグラフの表示方法について,「パラグラフをまとめた小見出しを作成し,小見出しと対応づける」か,もしくは「パラグラフの範囲を提示する」かが議論になった。そして,「ログ本文に小見出しをつけるべきか」が議論になった。
結局,ログは会話の記録であるためもともと構造化されておらず,できるだけ生のまま残す方がよいと考え,ログには小見出しを入れなくてもよい(すでに小見出しが挿入されているものについてはそのままでもよい)とした。これは,キーコンセプトをそれぞれのログ毎に用意することにより目次としての役割を果たさせることで小見出しを挿入する必要はないと考えたからである。また,キーコンセプトの複数パラグラフへの対応を示すのには,範囲指定をする(範囲を文字で示し,リンク先は先頭のパラグラフ)こととした。
ここでは,報告書の制作における入稿時の技術的側面について述べる。
この委員会では,原稿収集は電子メールによって行なった。「電子入稿向きの執筆要領」をあらかじめ決めて担当の委員に徹底した結果,原稿データはかなり正規化され,編集作業は容易であった。
では,「電子入稿向きの執筆要領」を定めないと,どのような問題を生じるのか。他の委員会の例で見てみよう。ちなみに,その委員会における電子原稿の執筆要領は,従来から電子協で採用している執筆要領を基本とし,使用するワープロソフトの種類をあるメーカー製品に統一しただけである。
このように「電子入稿向きの執筆要領」を定めないと,編集処理で悩まされ,作業効率を下げることになる。したがって,前述の問題点を執筆者によく認識してもらうことが肝心である。この程度の「制約」であれば執筆の負担にはならないと思われる。
この委員会では,現在の「電子協の報告書執筆要領」における文書構造の表わし方については問題があることを指摘してきたが,まだ解決に至っていない。その要領では,見出しの章節番号は章・節・項の3レベルまでで,それ以下のレベルは,(1),(2),...,(a),(b),...などを使用した項番号をふることになっている。この基準では,例えば,ある見出しの項番号が(1)の場合に,その中の箇条書きの項番号が(1)になることがある。報告書の内容が従来に増して詳細化されていることを考慮すると,章節番号はさらに5レベル程度まで下げる必要があると思われる。
文書構造の表わし方については,見出しの章節番号や項番号以外に,脚注,ルビ,割注についても決める必要がある。ワープロ文書による入稿が増えているが,執筆者が十分なスタイル定義をしていないものが多く,ワープロ文書のレイアウト情報から文書構造を抽出することは困難である。したがって,ワープロソフトの使用を前提とした「報告書執筆要領」では,スタイル定義を厳密に規定すべきだろう。また,エディタの使用を前提とした「報告書執筆要領」では,データタグを厳密に規定すべきだろう。ここを曖昧にすると,「電子入稿向きでない執筆要領」の場合と同様に,編集処理で悩まされ,作業効率を下げることになる。
現在,電子協ではインターネットのウェブによる報告書の公開が始まっているが,「紙の報告書」をそのまま電子化しただけの表示形態は見直すべき時期にきていると思う。「ウェブの報告書」では,目次をどのように持つのか,前述の章節番号をそのまま使うのか,あるページをダウンロードされた場合に一つの文書としての一貫性はどのように保つのかが問題となろう。ウェブの普及を考えると,そうしたことへの指針を早急に決める必要がある。
この委員会の「ウェブの報告書」としては,木構造に細分化したページから構成する報告書(HTML型),すべてのページを含む報告書(HTML型とPDF型)の三通りを提供する。これらの報告書における目次から本文への内部的なリンクはいずれも同じである。読み手は必要に応じてそれらを選択できるようにした。
今後は「文書の電子化」を単なるワープロ文書化,電子メール化の段階に止まることなく,さらに一歩踏み込んでいかなければならないだろう。現状では,文書処理の効率化やワンソース・マルチユースの観点から,最初からその目的に合わせた情報の持ち方やワークフローを考えておくプレパーパシング(prepurposing)を意識していきたいものである。
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